この記事は中小企業のAI導入の始め方の続きです。最初の業務の選び方は、そちらで扱っています。効果が出やすい業務の見分け方と部門別の具体例は業務効率化をAIで進める方法にまとめています。
AIで減らせる時間はどう計算するか:3つの数字の掛け算
AIで減らせる作業時間は、次の式で見積もります。
削減できる時間(月) = 対象業務の月間時間 × 削減率
金額に換算する場合は、これに担当者の時給換算を掛けます。難しい式ではありませんが、3つの数字それぞれを「どう決めるか」で、結果の信頼度が決まります。 適当に置いた数字を掛け合わせても、意味のある見積もりにはなりません。
CoadexのAI活用セルフ診断も、内部ではこの式で計算しています。この記事は、その計算を自分で行うための手順です。
計算の順番:3ステップ

ステップ1:対象業務の月間時間を出す
まず、AIで置き換える候補の業務を書き出し、それぞれに月あたり何時間かかっているかを出します。正確な計測は不要で、担当者に「週にどのくらい」を聞いて4倍すれば月の目安になります。
対象にするのは、AIが下書きや整理を担える「文章・資料・データの作業」です。判断や交渉、対面の作業は入れません。
| 入れる | 入れない |
|---|---|
| メール・文書の下書き | 顧客との打ち合わせ・交渉 |
| 議事録・報告書の整理 | 最終的な判断・承認 |
| 定型データの入力・転記 | 現場での作業・移動 |
| 調査・情報収集の要約 | 関係構築のための時間 |
ステップ2:削減率を掛ける
対象業務の全部が消えるわけではありません。AIが下書きを作っても、人が確認し、直し、送る時間は残ります。削減率は「AIが担う部分の割合」で、業務によって変わります。
目安として、Coadexの診断では40〜60%を使っています。これは支援の現場で「文章・資料の作業をAIが下書きし、人が確認する」運用にしたときの実感値です。自社で試した結果があれば、その数字を使うのが最も正確です。試す前の段階では、慎重に見て40%、標準で50%と置くと、過大な見積もりになりにくい。生成AIを使っている個人は日本で26.7%(2024年度)にとどまり(総務省『令和7年版 情報通信白書』図表Ⅰ-1-2-7、2026-09-22取得)、社内に慣れた人が少ない会社がまだ多数派です。慣れるまでは確認に時間がかかるので、最初は40%から始めるのが安全です。
ステップ3:時給で金額に換算する
削減時間に、担当者の時給換算を掛けます。給与を月の労働時間で割った金額でも、社内で使っている標準の単価でも構いません。Coadexの資料では、例として3,000円/時を使っています。
計算例:月80時間の業務で、どれだけ時間が空くのか
3ステップを、月80時間の対象業務に当てはめた例です。月80時間の業務で、削減率50%なら月40時間が空きます。
| 項目 | 数字 | 出し方 |
|---|---|---|
| 対象業務の月間時間 | 80時間 | ステップ1で書き出した業務の合計 |
| 削減率 | 50% | ステップ2の標準の置き方 |
| 削減できる時間 | 月40時間 | 80時間 × 50% |
| 金額換算 | 月12万円(年144万円) | 40時間 × 3,000円/時 |
この金額は「空く時間の金額換算」です。売上が増える額ではありません(次の節の3点目)。試す前で慎重に見る場合は、削減率を40%にして計算します。
計算で間違えやすい3点

対象業務を広く取りすぎる
「事務作業は全部AIで」と、判断や対面の時間まで含めると、月間時間が膨らみ、計算結果だけが大きくなります。実際には減らない時間なので、導入後に「思ったほど減らない」となります。ステップ1の表で、入れないものを除きます。
削減率を100%近くに置く
AIが下書きしても、確認と修正は残ります。削減率を80%以上に置く根拠は、自社で試して確かめるまで持てません。 試す前は40〜50%で見積もり、試した結果で更新します。
「空く時間」と「増える売上」を混同する
計算で出るのは、空く作業時間とその金額換算です。空いた時間で営業や改善に取り組めば売上につながる可能性はありますが、それは別の話です。計算結果を「売上が増える」と説明すると、社内の期待がずれます。
計算結果はどう使うか
AIを導入した中小企業の87.0%が、導入目的に「業務効率化/作業時間の短縮」を挙げています(中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月、回答1,647社、2026-09-22取得)。つまり、ほとんどの会社にとって「時間がどれだけ減ったか」が導入の成否そのものです。出てきた数字は、次の3つに使えます。
- 導入の優先順位:複数の業務を計算し、削減時間が大きいものから着手する。
- ツールや支援の費用対効果:月の削減額と、ツール費用・支援費用を比べる。
- 導入後の評価:2週間〜1か月後に実測し、見積もりとの差を見る。
3つ目が最も重要です。見積もりは仮説で、実測で更新して初めて、次の業務の見積もりが正確になります。最初の業務の選び方は中小企業のAI導入の始め方で扱っています。実測で思ったほど減らなかった場合の見直し方はAI導入が失敗する会社の共通点3つと、避けるための順番が参考になります。
よくある質問
作業時間を正確に計測しないと計算できませんか
計測しなくても、担当者への聞き取りで十分です。「週にどのくらい」を聞いて月に換算します。精度より、対象業務の範囲を正しく取ることのほうが結果に影響します。
削減率40〜60%はどの業務にも当てはまりますか
当てはまりません。文章・資料・データの整理など、AIが下書きを担える業務での目安です。判断や対面が中心の業務は、対象から外すか、削減率をかなり低く見ます。
計算結果より実際の削減が少なかった場合、どうすればいいですか
多くは、対象業務の範囲が広すぎたか、AIへの指示が定まっていないかのどちらかです。範囲を「AIが下書きできる作業」に絞り直し、指示の形式(何を・どの形で・誰向けに)を固めると改善します。
自社の数字で計算した結果をすぐ見たい
CoadexのAI活用セルフ診断で「社内の作業・AI活用」を選び、作業ごとの月間時間を入力すると、この記事と同じ式で削減余地の目安が表示されます。
出典・参考資料
- 総務省『令和7年版 情報通信白書』「個人におけるAI利用の現状」図表Ⅰ-1-2-7 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112210.html(2026-09-22取得)
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月、全国の中小企業10,000社対象・回答1,647社) https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf(2026-09-22取得)



