この記事は中小企業のAI導入の始め方の各論です。部門ごとにAIに任せやすい作業の一覧は業務効率化をAIで進める方法にまとめているので、この記事では、公開資料に載っている実際の事例に絞ります。

中小企業のAI活用事例から分かることは?まず文書の仕事から

中小企業のAI活用事例を見ると、成果が出ているのは請求書・報告書・提案書・広告文など、文書を作る仕事です。事例の会社に共通するのは、ツール選びより先に、社長が自ら使い、全社で使い方を共有していることです。

事例の情報は、多くの中小企業が足りないと感じています。中小企業基盤整備機構の調査では、AI・IT導入について「成功事例や活用事例などの情報」が足りないとした企業が83.3%で、不足している情報の中で最も多い項目でした(中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」、2026年3月、2026-10-02取得)。

この記事の事例は、すべて国の白書と経済産業省の選定企業レポートに載っているものです。会社名は書かず、業種と規模で紹介します。

部門 業種・規模 AIの使い方 資料に書かれた成果
経理 廃棄物処理業・従業員109名 生成AIで請求書の一括送信システムを内製 請求書発送のコストを約1,080千円/年削減
経理・営業 小売業・従業員61名 全社員が生成AIを使える環境を整え、月1回の成果報告 請求書処理275分/月、提案書の作成・引継ぎ300分/月を削減
営業 機械器具卸売業・従業員33名 海外論文の要約、英語マニュアルの翻訳、広告の案出し 広告のレスポンスが平均で2倍以上
総務・現場 訪問看護・従業員26名 生成AIで報告書の作成を支援 報告書の作成90%削減(1時間→5分)
総務・現場 金属製品製造業・従業員85名 生成AIと対話して社内の管理アプリを自作 労働時間を月530時間程度削減
中小企業のAI活用事例の3つの部門。経理、営業、総務
どの部門でも、AIに任せているのは文書を作る仕事です。

経理のAI活用事例:請求書の処理から始める

経理のAI活用は、毎月同じ形でくり返す請求書の作業から始まっています。

請求書の一括送信の仕組みを、生成AIで1か月で内製

廃棄物処理業の会社(従業員109名)は、生成AIを使って、約1か月で請求書の一括送信システムを社内で作りました。請求書の発送にかかる定常的なコストを、約1,080千円/年削減しています。社内向けの生成AIを「ITの専門家」に見立てて、社員が自習に使える形でも公開しました(経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」、2026-10-02取得)。

全部署で毎月、生成AIの改善成果を報告

小売業の会社(従業員61名)は、全社員が生成AIを使える環境を整え、全部署に月1回、生成AIを使った改善成果の報告を義務づけました。生成AIの活用などの取り組みの成果として、請求書の処理を275分/月、営業提案書の作成・引継ぎを300分/月削減しています(経済産業省「DXセレクション2026」選定企業レポート、2026-10-02取得)。

営業のAI活用事例:資料の読み込みと広告づくり

営業のAI活用は、提案の前の調べものと、広告や提案書の下書きで成果が出ています。

光学機器の輸入商社(従業員33名)は、2023年に生成AIを導入し、社長が率先して使い、プロンプトの勉強会も開きました(中小企業庁「2026年版中小企業白書」、事例2-2-3、2026-10-02取得)。

広告のレスポンスは平均で2倍以上になり、以前は月平均5件程度だった広告からの問い合わせが、多い月には45件に達したと紹介されています。営業資料のたたき台、翻訳、契約書のチェック、請求書のファイル変換にも使い方を広げています。

総務・バックオフィスのAI活用事例:報告書と社内の仕組み

総務やバックオフィスの事例では、毎日書く報告書と、紙で回していた管理の仕組みが対象になっています。

報告書の作成を1時間から5分に

訪問看護ステーション(従業員26名)は、生成AIを使った社内の仕組みを自社で作り、看護師の最大の負担だった報告書の作成をAIが支援する形にしました。報告書の作成は90%削減(1時間→5分)、報告書の郵送手配は97%削減(2時間→3分)とされています(経済産業省「DXセレクション2026」選定企業レポート、2026-10-02取得)。

生成AIと対話して、社内の管理アプリを自作

金属製品製造業の会社(従業員85名)では、エンジニアではない専務が、約2年・合計1,000時間以上AIとの対話を重ね、検査実績・在庫・生産の進み具合・労務などを管理する統合システムを自作しました。月5,000〜6,000枚分のペーパーレス化と、月530時間程度の労働時間の削減につながっています。同じシステムを外注すれば約8,000万円かかったとされています(中小企業庁「2026年版中小企業白書」事例2-2-14、2026-10-02取得)。

生成AI活用事例に共通する進め方とは

事例の会社には、業種や規模が違っても、共通する進め方があります。

生成AI活用事例に共通する3つの進め方。社長が使う、人が確かめる、全社で共有する
ツールより先に、この3つの体制を整えています。
  1. 社長や役員が自分で使う:光学機器の商社は社長が率先し、製造業では専務が自らアプリを作りました。
  2. AIの出力を人が確かめる:広告や資料は担当者が推敲し、事実は必ず確かめています。
  3. 使い方を全社で共有する:小売業の会社は月1回の成果報告を全部署に義務づけ、商社はプロンプトの勉強会を開きました。

反対に、ツールを入れただけで使い方を共有しないと、使う人と使わない人に分かれます。AI導入でつまずく会社の共通点はAI導入が失敗する会社の共通点で整理しています。

自社で最初のAI活用事例を作るには、どの順番で進めるか

自社で最初の事例を作るときは、次の順番で進めます。

  1. 毎月くり返す文書の仕事を1つ選ぶ:請求書、報告書、提案書、議事録など
  2. 今かかっている時間を記録する:1回あたりの時間と、月の回数
  3. 2〜4週間、AIで下書きして人が確かめる:入力してはいけない情報は先に決めておく
  4. 減った時間を記録し、社内で共有する:使い方を手順書にして、次の担当者にも広げる

減った時間の出し方はAIで減らせる作業時間の計算方法に、入力してはいけない情報の決め方は生成AIガイドラインの作り方にまとめています。

よくある質問

経理のAI活用は、何から始めればいいですか

この記事で紹介した経理の2つの事例は、どちらも毎月同じ形でくり返す請求書の作業が対象でした。金額や取引先の情報を扱うため、どの情報をAIに入力してよいかを先に社内で決めてから試します。

営業のAI活用で、AIが書いた広告文をそのまま使ってもいいですか

事例の会社は、AIに出させた案を営業担当が推敲し、事実は必ず確かめていました。そのまま使わず、人が確認してから出す形にします。

生成AIの活用事例は、小さな会社でも参考になりますか

この記事の事例は、従業員26名から109名の会社です。製造業の事例では、エンジニアではない役員が生成AIと対話しながら社内の仕組みを作っています。

自社でAIを使える業務を知りたい

CoadexのAI活用セルフ診断で「社内の作業・AI活用」を選ぶと、時間がかかっている作業から、AIに任せやすい業務の目安が出ます。

出典・参考資料