この記事は中小企業のAI導入の始め方の各論です。DXそのものの意味と始め方はDXとはで扱い、この記事ではDX戦略の立て方に絞ります。

DX戦略とは:経営ビジョンを実現するための、データとデジタルの使い方

DX戦略とは、経営ビジョンを実現するために、データとデジタル技術をどう使うかを決めた方針 です。どのツールを入れるかの計画ではなく、目指す事業の姿にどうたどり着くかの道筋です。

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、DX戦略を「データとデジタル技術を活用する戦略」と呼び、経営ビジョンの実現に向けた戦略そのものと捉える必要があるとしています。また、目指すビジネスモデルを実現するための方策として策定するもの、と位置づけています(経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」、2026-10-11取得)。

同じ文書は、DX戦略の検討は経営陣が主導し、具体的なアクションやKPI(目標の数字)まで考えることを求めています。担当者に任せて作る資料ではありません。

DX戦略とDXの違いは?経営ビジョンとの関係

DXは「データとデジタル技術で、製品・サービスや業務、組織を変え、競争で優位に立つこと」です(同コードの定義の要約)。DX戦略は、そのDXを自社でどう進めるかを決めたものです。

層 何を決めるか 中小企業での例
経営ビジョン 5年後・10年後に、どんな会社でありたいか 見積もりの早さで選ばれる会社になる
DX戦略 ビジョンに向けて、データとデジタルで何を変えるか 見積もりに要る情報をデータでそろえ、当日返信にする
施策 具体的に何を入れ、誰が動くか 過去の見積もりを表にまとめ、AIで下書きを作る

順番は上からです。施策(ツール)から決めると、DXの目的がぶれます。DXの始め方そのものはDXとはの「何から始めるか」の節で説明しています。

中小企業のDX戦略は、どのくらい作られているか?

DX戦略を作り終えている中小企業は、まだ1割ほどです。中小企業基盤整備機構の調査(2025年12月、中小企業1,000社)では、DX推進のためのビジョンや経営戦略・ロードマップを「策定済」の企業は9.3%、「策定中」が24.7%、「未策定」が66.0%でした(中小機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」、2026-10-11取得)。

DXに「既に取組んでいる」企業でも、29.6%が「未策定」です。ツールの導入は進んでいても、何のためのDXかを書いた戦略がないまま進めている会社が少なくありません。

中小企業白書は、DXの取り組みを4つの段階に分けています。2023年時点で、段階1(紙や口頭が中心)と段階2(デジタルツールに移行中)の企業が合わせて66.2%、段階4(ビジネスモデルの変革に取り組む)の企業は6.9%でした(中小企業庁「2024年版 中小企業白書」、2026-10-11取得)。

DX戦略の立て方:中小企業の5つの順番

DX戦略を立てる順番。目指す姿を決める、差を数字で測る、打ち手と体制を決める
ツールを選ぶのは最後です。先に、目指す姿と今の差を数字で書きます。

デジタルガバナンス・コード3.0の「3つの視点」(経営ビジョンとDX戦略の連動、目指す姿と現在の差の定量的な把握、企業文化への定着)を、中小企業で進める順番に並べました。

  1. 目指す姿を1行で書く:5年後に顧客から何で選ばれていたいかを書きます。「見積もりを当日返す」「在庫を電話で聞かれない」のように、顧客か現場にとっての変化で書きます
  2. 今の姿を数字で測る:見積もりの返信にかかる日数、転記にかかる時間など、目指す姿との差を1〜3個の数字で測ります。コードも、目指す姿と現在の姿の差をKPIで定量的に把握することを求めています
  3. 差を埋める打ち手を決める:まず社内の1業務のデジタル化、次にたまったデータで業務の流れを変える、の順で並べます
  4. 体制と人を決める:推進役を1人指名し、経営者が月に1回は進み具合を見る場を作ります。社内で足りない部分は外部の支援を使います
  5. 見直す時期を決める:半年に1回、2の数字が動いたかを確かめ、打ち手を入れ替えます

作業時間の測り方はAIで減らせる作業時間の計算方法にまとめています。

DX戦略に書く項目は?1枚にまとめるひな形

DX戦略を1枚にまとめる項目。ビジョン、戦略と指標、体制と人
大企業向けの項目を、中小企業が1枚で書ける形にしました。

デジタルガバナンス・コード3.0は、経営者が取り組む事柄を「5つの柱」にまとめています。この柱を、中小企業が1枚で書ける項目に置き換えました。

コードの柱 1枚に書くこと 書き方の例
1. 経営ビジョン・ビジネスモデルの策定 5年後の姿と、どこで稼ぐか 見積もりの早さで選ばれ、リピート注文を増やす
2. DX戦略の策定 データとデジタルで変えること 見積もりの材料をデータでそろえ、AIで下書きする
3. DX戦略の推進(組織・人材・ITとセキュリティ) 推進役、育てる人、使う道具と守るルール 推進役は営業課長。社内のAI利用ルールを作る
4. 成果指標の設定・DX戦略の見直し 測る数字と見直す時期 見積もりの返信日数。半年ごとに見直す
5. ステークホルダーとの対話 誰に、どう伝えるか 社員には朝礼で、取引先にはホームページで伝える

3のうち、AIを使うときのルールは生成AIガイドラインの作り方の雛形が使えます。

DX戦略を公表するとどうなるか?DX認定との関係

DX戦略を作って公表すると、国の「DX認定」を申請できます。DX認定は、デジタルガバナンス・コードに対応し、DX推進の準備が整っていると認められた企業を国が認定する制度で、対象は法人と個人事業主を含むすべての事業者です(IPA「DX認定制度のご案内」、2026-10-11取得)。

コードの柱2の認定基準は、ビジネスモデルを実現するための方策として「DX戦略を公表していること」です。審査は、取締役会などの承認を得た公開文書に書かれた事項をもとに行われます。認定を目指さなくても、ホームページに戦略を載せておくと、採用や取引先への説明に使えます。

DX戦略づくりを外部に頼む場合の依頼先の種類と選び方は、DX支援・DXコンサルとはで整理しています。

よくある質問

DX戦略とDX推進計画は何が違いますか

DX戦略は、経営ビジョンに向けてデータとデジタルで何を変えるかという方針です。推進計画は、その方針を実行するための手順や時期を並べたものです。中小企業では、この記事の1枚のひな形に「見直す時期」まで書けば、両方を兼ねられます。

小さな会社でもDX戦略は必要ですか

必要です。デジタルガバナンス・コードの対象は、大企業・中小企業や、法人・個人事業主を問わない一般の事業者です。大きな文書は要らず、目指す姿・測る数字・最初の打ち手が1枚に書いてあれば十分です。

DX戦略に生成AIはどう位置づけますか

生成AIは、戦略そのものではなく、打ち手の1つです。目指す姿と測る数字を先に決め、その差を埋める業務にAIが効くかで判断します。AIを入れること自体を目的にすると、DX戦略と施策の順番が逆になります。

自社のDX戦略の最初の打ち手を決めたい

まず1週間分の作業と時間を書き出し、繰り返しが多い作業を探します。CoadexのAI活用セルフ診断で「社内の作業・AI活用」を選ぶと、作業時間の入力から、デジタル化とAIで減らせる時間の目安が出ます。

出典・参考資料