この記事は中小企業のAI導入の始め方の各論です。DXそのものの意味はDXとはで、DXの方針の立て方はDX戦略とはで扱い、この記事では人材に絞ります。

DX人材とは:データとデジタルで、仕事の変え方を考えて進める人

DX人材とは、データとデジタル技術を使って、事業や業務の変え方を考え、社内で進められる人材 です。プログラムを書ける人だけを指す言葉ではありません。

経済産業省とIPA(情報処理推進機構)の「デジタルスキル標準」は、DXに関わる人材を2つの層に分けています。全てのビジネスパーソン(経営層を含む)が身につける「DXリテラシー標準」と、専門性を持ってDXを推進する人材のための「DX推進スキル標準」です(経済産業省・IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」、2026-10-13取得)。

中小企業でいえば、社員全員がデジタルの基本を知っていて、そのうち1〜2人が業務の変え方を考えて引っぱる状態が、DX人材がいる状態です。

DX人材にはどんな種類があるか?6つの類型

デジタルスキル標準は2026年4月にver.2.0へ改訂され、DXを推進する人材の類型に「データマネジメント」が加わって6つになりました。AIの活用とデータ活用の重要性が高まったことが理由です(経済産業省「デジタルスキル標準」、2026-10-13取得)。

類型 役割(標準の定義の要約) 中小企業で担う人の例
ビジネスアーキテクト 変革で実現したい目的を決め、関係者をまとめてプロセス全体を引っぱる 社長、または推進役に指名した管理職
デザイナー 顧客・ユーザーの視点で、製品・サービスのあり方を設計する 営業や企画の担当者
データサイエンティスト データ解析やAIの仕組みで、業務の変革を進める 表計算が得意な事務・経理の担当者
データマネジメント データの安全性・信頼性を保ち、組織全体で使える状態にする 総務・情報システムの担当者
ソフトウェアエンジニア デジタル技術を使う製品・サービスのシステムを設計・運用する 外部の制作会社・開発会社
サイバーセキュリティ デジタル環境のセキュリティリスクを抑える対策をする 総務の担当者と外部の専門家

6つをそろえる必要はありません。同じ標準は、6つの類型を「どのような人材を確保・育成するか設定するための参考」と位置づけ、1人が複数の役割を兼ねることも想定しています(「デジタルスキル標準 ver.2.0」)。

DX人材に必要なスキルは?全員に要るDXリテラシー

DXリテラシーで学ぶ内容。背景と使う技術、使い方と注意、マインド・スタンス
専門の人材を育てる前に、全員がこの内容を知っている状態を作ります。

専門の人材より先に、全員に要るのがDXリテラシーです。DXリテラシー標準は、学ぶ内容を4つの柱に分けています(「デジタルスキル標準 ver.2.0」)。

  1. Why(なぜ):DXが必要になった背景。顧客や競合、社会の変化
  2. What(何を):DXで使われるデータとデジタル技術。AIやクラウドなど
  3. How(どう使うか):データと技術の使い方と、使うときの注意点
  4. マインド・スタンス:変化を受け入れ、学び続ける姿勢

生成AIについても補記があります。生成AIを「問いを立てる」「仮説を立てる・検証する」といったスキルと組み合わせて使うこと、著作権の侵害や情報漏洩などに注意することが挙げられています(同標準)。社員に最初に教える内容は、生成AIの社内研修で教えることで1時間の時間割にしています。

DX人材はどのくらい足りていないか?

DXに取り組む企業の多くが、人材の不足を感じています。IPAの調査では、DXを推進する人材の「量」が不足していると答えた企業は85.5%、「質」が不足している企業は88.8%でした(IPA「DX動向2026」、2026-10-13取得。DXに取り組む企業が対象)。

同じ調査で、必要な人材像を「設定し、社内に周知している」企業は16.2%にとどまります。足りないと感じていても、どんな人が要るかを決めていない会社が多いということです。

中小企業では、事情が少し違います。中小企業基盤整備機構の調査(中小企業1,000社)で、DXに取り組むうえでの課題は「ITに関わる人材が足りない」が28.3%で最も多い一方、従業員20人以下の企業では「予算の確保が難しい」が28.1%で1位でした(中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」、2026-10-13取得)。

小さな会社ほど、専門の人を採用するより、今いる社員を育てるほうが現実的です。

中小企業のDX人材育成は何から始めるか?4つの順番

中小企業のDX人材を育てる順番。役割を決める、全員の基礎、推進役を育てる
採用の前に、社内で1人目を育てる順番です。

Coadexが支援で使っている順番です。

  1. 役割を決める:6つの類型のうち、自社で今いちばん要る役割を1つ選びます。多くの中小企業では、目的を決めて引っぱる「ビジネスアーキテクト」が最初です
  2. 全員の基礎をそろえる:DXリテラシーの4つの柱と、社内のAI利用ルールを、全員に短時間で伝えます
  3. 推進役を1人指名する:業務をよく知る社員を1人選び、1つの業務の改善を任せます。経営者は月に1回、進み具合を確かめます
  4. 足りない部分は外部に頼む:システムの開発やセキュリティは、社内で育てるより外部の専門家に頼むほうが早い役割です

この順番は、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」の考え方とも合います。同コードは、デジタルスキル標準を参照して必要なスキルを明確にし、全社員のデジタル・リテラシーを高める仕組みを作ること、外部のアドバイザーやパートナーも活用することを求めています(経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」、2026-10-13取得)。外部の依頼先の種類はDX支援・DXコンサルとはで整理しています。

DX人材育成に使える無料の講座と支援は?

社員が学ぶ場として、国が運営するサイトと制度があります。

名前 運営 内容
マナビDX 経済産業省・IPA デジタルスキル標準に合う講座を審査して掲載。受講料無料の講座もある
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) 厚生労働省 新しい分野で必要な知識・技能の訓練をした場合に、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成。DX化のための訓練も対象

マナビDXは、経済産業省とIPAが運営するデジタル人材育成のサイトで、講座はリテラシーと役割別の実践から探せます(IPA「マナビDX」、2026-10-13取得)。助成金には訓練の時間や内容の要件があります。生成AIの研修で使えるかの条件は生成AIの社内研修で教えることの助成金の節にまとめました。要件と金額は年度で変わるため、申請前に厚生労働省のページで確かめてください(厚生労働省「人材開発支援助成金」、2026-10-13取得)。

よくある質問

DX人材とIT人材は何が違いますか

IT人材は、システムの開発や運用を担う人を指すことが多い言葉です。DX人材は、データとデジタルを使って事業や業務の変え方を考える人で、システムを作れなくても担えます。デジタルスキル標準の6つの類型のうち、ITの専門技術が中心なのはソフトウェアエンジニアとサイバーセキュリティです。

DX人材は採用と育成のどちらがいいですか

中小企業では、まず社内で育てることをおすすめします。業務をよく知る社員のほうが、どこを変えればいいかを見つけやすいからです。開発やセキュリティのように専門性が高い役割は、採用より外部への依頼が現実的です。

DX人材育成に資格は必要ですか

必須ではありません。デジタルスキル標準も、スキルをやみくもに身につければDXが進むわけではないと注意しています。学ぶ目安として資格を使うのはよい方法ですが、1つの業務を実際に変えた経験のほうが、社内では役に立ちます。生成AIの資格を社員に取らせるかの判断は、生成AIパスポートは意味ない?で整理しています。

社内のどの業務から推進役に任せればいいか知りたい

1週間分の作業と時間を書き出し、繰り返しが多い業務を探します。CoadexのAI活用セルフ診断で「社内の作業・AI活用」を選ぶと、作業時間の入力から、デジタル化とAIで減らせる時間の目安が出ます。

出典・参考資料